新人メイド・ルーウェル

 主人に使われる為にメイドという職業はある。
 新人メイドのルーウェルは、今の職業が好きだ。
 実家に居た時の彼女の生活は、毎日が命懸けだった。朝起きるとすぐに畑で反転蜜柑を素手で掘りながら、蜜柑を掘るルーウェルを今夜の食料にしようと狙う多頭狼たちを追い払い、何も出来ない病弱な妹ふたりと、世間知らずの魔法馬鹿な姉の世話をして、蜜柑を洗い、選別し、箱を組み立て、その箱に詰め、五、六箱を背負い、市場に持って行き買ってもらう。その帰りに夕食にする魚を川で捕らえ、雀の涙程度の金と一緒に持ち返る。
 市場から帰って来てからも暇は無く、夕暮れ時に年中無休で反転蜜柑畑の近くに出没する金属怪蟲たちを、枯れた樹の枝で撃退するという過酷を極めた作業が待っている。家族はその際全く役に立ってくれない。ふたりの妹はひどく病弱なため、ほんの少し走っただけで一時間は休まなければならないし、姉は「そんな事の為に私の魔法は存在せんのだ」と言って何もしない。なのでルーウェルは生傷が絶えたためしがなかった。
 その頃を思えば、今はまるで天国だ。
 種類も分からぬ花に水をやりながら、ルーウェルはそんなことを思う。
「ここにいたんですね、ルーウェル」
 後方から声をかけられ、ルーウェルは水やりを中断した。
「あや、ラミューレ先輩」
「すみませんが、今日の、私の分の掃除をお願い出来ますか? どうしても今日中に読んでおかなければならない本が出来たのです」
「え? いや別にいいですが・・・・ラミューレ先輩、今日はどちらの担当でしたっけ?」
「別館です。お願い出来ますか?」
「いいですよ。本を読みたいなら仕方無いです」
「そう、ありがとう。じゃあお願いね」
 ラミューレは頭がいいのか、要領がいいのか、新人メイドのルーウェルを使う事を得意としている。
 ルーウェルは、本を読むこと以前に、字を読めない。今まで穴を掘ったり、食事を作ったり、化物と戦ったりしたことは有るが、字を覚えたりしようと思った事は無い。市場で馬鹿にされないように簡単な計算を姉に教えて貰った事はあるが、文字はひとつも教えて貰っていない。
 本を読むという事は、ルーウェルにとって大変過ぎること、というより絶対に無理なことなのだ。
 本を読まないとならない。と、言われたら仕方が無い。大変なことをしなければならないんだ。私が変わって仕事をしよう。
 ルーウェルは『毎回』そんな事を考え、引き受けてしまう。
 今回もその例に漏れなかった。
 花に水をさしたあと、別館を丁寧に掃除する。
 舌で舐めても構わないほどに清潔にする。もちろんそこまでやる必要は無い。しかしルーウェルは加減を知らないうえ、丁寧にやらなければいけないと思い込んでいる。
 他のメイドも確かにしっかりと清掃するが、どこかで手を抜き、息を抜く。
 誰もそれをとがめたりはしない。毎回毎回天井の端まで雑巾で拭いたりは出来ない。そんなことはせいぜい百日に一度すればいい。
 まだルーウェルは、適度の手抜きというものを知らない。
 だからいつも、掃除をしたあとは疲れてしまう。しかし反転蜜柑畑と多頭狼と金属怪蟲にさんざん鍛えられた彼女の肉体はたいしたもので、疲れはすぐに回復する。そのためにまた利用される。
「ルーウェルさん、すいません、手伝ってもらえませんか?」リップスに呼ばれ、ルーウェルは歩行を中断する。
「シーツを取り込む手伝いをして貰えません?」と、言われれば、ルーウェルは従う以外の行動を考えられない。
 先輩の頼みは聞かなければならないと思い込んでいるのだ。
 リシエルに(半分冗談で)言われた事を馬鹿正直に守っているのだ。
 リシエルは、カマキリ型の金属怪蟲と相討ちになり、後は死ぬのを待つだけとなったルーウェルを救い、この屋敷にまで連れて来た、いわば命の恩人である。(その時に何を考えていたかは解らないが)
 過剰なまでに義理堅いルーウェルにとって、彼女の命令は絶対である。
 よって今回も先輩メイドを手伝う。
 物干し竿から何十枚ものシーツを取り、屋敷内へと持ち返る。
 屋敷の中ではシーツの皺を伸ばす作業も手伝わされそうになったが、今のルーウェルの主人であるレイファンに呼び出され、難を逃れた。
 しかし一難去ってまた一難、レイファンがルーウェルを呼び出した理由は、さぼらせようとかいうものではなく、仕事をしてもらおうというものであった。
 書庫の本棚を、運悪く半分以上倒してしまったのだ。
「かしこまりました。直しておきます。しかし本の並びとかは、私、字が読めませんのでぐちゃぐちゃになりますが、よろしいですか?」
「ええ、それについては構いません。もともと自分でも善く分かっていませんでしたからね。それではルーウェル、お願いしますよ」
 言い残し、レイファンは書庫を出て行った。
 ルーウェルは尊敬する主人を一礼して見送り、すぐさま仕事に取り掛かった。
 随分と過去に生み出された魔術書というのは、獣の皮革が紙になっているためと、無意味に威厳を持たせるために表紙が分厚いため、だいたいのものが一冊でも結構な重さと大きさがある。レイファンはそれを魔法(細分化されているので魔法と言うのは間違いなのだが、ルーウェルには細かい分類が解らないため、全部魔法と言ってしまう)で軽量化して読む。
 軽くしなければ持って読めないし、持って歩くだけでも非常に疲れる。
 疲れる。
 ルーウェルは、疲れた。
 全身の筋肉が張って、痛くなる。
 仕事はなんとか無事に終わったが、久方振りの筋肉痛はルーウェルの気力を奪い、打ちのめした。
「うう、なんか・・・・非力・・・」
 ルーウェルは、肩を落として風呂に行き、その日の汗をさっと洗い流した。そして自分に与えられた部屋へふらつきながら帰って行った。
「あ、そういえば御飯食べていない・・・・」歩きながらの独り言に力は無い。
「そうですか、じゃあ」誰かの声がルーウェルの後方からした。同時に、首に柔らかな感触と、香水にも似た香りの体臭が訪れる。
「あ、ラミューレ先輩・・・・」ラミューレに後から抱きつかれ、ルーウェルは無意識の内に素早く赤面し、先輩の顔を見る。
「飲ませてあげましょう」
「は・・・・はい・・・」先輩には抵抗出来ない。また、抵抗する意思も無い。疲れているので気力も
無い。ルーウェルは全面的に支配されることを選んだ。
 ラミューレは優しくルーウェルの肩に白くしなやかな手を乗せ、力を入れずに下に押す。
 下に押されてルーウェルは、木の床の上にひざまずく。
 スカートを持ち上げ、その下に入り込み、ルーウェルは愛する先輩の男性器に触れる。
 舌で愛撫するのが始まり? 等の事を考えながら、ただひたすらに舌と唇と歯でラミューレの股間を舐めるルーウェル。彼女はこの屋敷に来てから日も浅く、それまで仕事と家事で性欲どころでは無かったため、その舌技はためらいがちで、あどけない部分ばかりである。
 ラミューレにはそれが善いのだ。たまらなく善いのだ。技術の有る舌使いではないということは、これから自分の好きな様に染め上げる事が出来るということである。無論の事、舌だけではない。肉体をごりごりと犯し、最終的には便器同様の行為しか出来ない存在にすることすら出来る。
 ラミューレはとりあえずルーウェルを、自分の命令を忠実に実行する射精奴隷にでもしようと思っていた。そして最終的には一緒に主人のレイファンを犯すのである。
「あ、もう、出ますよ」そんな自分の野望にも興奮を加速させられ、驚くほど早々と出してしまいそうになるラミューレ。
「え? あぁ、んぁ・・・・」舌の先が液体を感じ、ルーウェルは慌てて口にラミューレの亀頭を無理矢理含み、入って来る液体をこぼさないように、喉を鳴らして飲む。
 ラミューレのペニスがあまりにでかいので、ルーウェルの顎は外れてしまいそうになるが、連日の事に慣れたのだろう、始めての時ほど辛くは無い。
「よろしい・・・」スカート越しにラミューレはルーウェルの頭を撫で、微笑みを浮かべた。
「あ、先輩、あの・・・」スカートから頭を引き上げ、自分の顔を手で撫でる。顔に液体が付着していないかどうかを確かめるためである。
 その仕草に、快楽を求める部分を刺激され、ラミューレは今日もルーウェルを犯す事を心に決めた。
 手で合図をし、後輩を立ち上がらせ、歩かせる。
「ま、また今日も、ですか?」
「当然です。先輩の言う事は聞く様に」
 そう言われては従わない訳には行かなかった。
 しかし苦痛は感じない。人付き合いにはまだ混乱する事が多いが、それでも自分にとっては楽な仕事であり、嫌われている訳でも無い。疲れる事も多いが、気持ちがいい事も多い。
(私は今、幸せだ)
「え? 何か言いました?」ルーウェルを見つめるラミューレ。
「いいえ、何にも言ってませんよ」笑って誤魔化すルーウェル。
 そしてふたりはひとつの扉の奥へと消えていった。

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